「心と認知の情報学」

心と認知の情報学 (シリーズ認知と文化 5)

心と認知の情報学 (シリーズ認知と文化 5)

石川はエキスパートシステムの研究をしていたらしい。実際に人工知能分野のプログラマをしていた人ということで、この本は非常に参考になった。
この本は情報から意識まで、認知科学の上で何が研究されてきたかをまとめている。議論の流れは「言うまでもなく」筆者の視点で書かれ、「ユーザーイリュージョン」のような物語性はないが、主張がよくまとまっていてわかりやすい。
はしがきとあとがきで要約が書かれているが、それを参考に概要を書く。
この本は4部から成っていて、

  1. 創造的な現象には、一般に計算量の問題が伴う。
  2. 計算量の問題は、量子理論の応用によって解決される可能性がある。
  3. 人間や心のとらえ方は、世界から切り離された存在から、世界と一体になった存在へと転換した。
  4. 意識は、コミュニケーションにおける他者と自己の仲介である。

という主張を、出典を詳しく示しながら説明している。現時点において新しい本なので、かなり最近の本まで紹介している。


石川は量子コンピュータに期待をしているが、量子コンピュータによって、計算量の問題が解決されるのだろうか。
確かに、光の経路は、量子的効果によって計算されたように見える。人が答えを見つけるとき、フレーム問題に陥らずに、短い時間で答えられるのもそれに似ている。
しかし、後者のほうが明らかに複雑で、それに到達するまでには、アルゴリズムを考えなくてはいけないのではないだろうか。
逆に言えば、そのアルゴリズムは量子的効果とは関係なく考えられると思う。
量子コンピュータの到来を待つ間に、複雑な問題を単純な問題に還元しておくことが重要だろう。


最後にコミュニティについて書かれている。人は150人程度の集団でコミュニティを形成するために最適化されていて、現代の情報メディアはそれを超える集団でコミュニティを形成しようとしている。
そのようなコミュニティでは、少人数の対話よりも、メタ情報の流通によってコミュニティが支えられている。
このギャップを超えるには、信頼できる友人によって信頼できる友人を紹介する方法が考えられる。
というようなことが書いてある(意訳)が、twitterSNSはそれに近いわけで、コミュニティ空間の改善はweb上で着実に進んでいるわけである。
こうしたweb上の動きは、書物で捕らえることは難しい。このことが、意識や感覚に影響を与えるならば、それを追うにはwebで直接体験するしかないだろう。


他にもISBN:4760894055「他者の心は存在するか―「他者」から「私」への進化論 (自己の探究)」
(金沢 創,1999,金子書房)を読んだけれど、こちらは考え方が甘いというか、感性が違う気がしたので、今はなんとも書けない。金沢の最新の著作を読んでみたい。