比喩武装しちゃいなよ!

議論に比喩を使って良いか否か、はてな上でもずいぶん前まで遡れる問題のようだけれども。周期的かどうか知らないが、たまにこういう話題にノッてみたくなる。

比喩は輸出を禁止すべき兵器として認定しないとヤバい。

void GraphicWizardsLair( void ); // 中身を知らなくても使える話のつづき

比喩ってのは罠を張るのにも最適なんだよね。

void GraphicWizardsLair( void ); // 「比喩を使用している文章は無条件に疑え」という比喩=兵器説

比喩から比喩を生み出し不毛。

議論における比喩禁止条約 - 最終防衛ライン3

…そうか、話を意図的にそらせて議論の本質に目を向けないようにする高等テクニックなんだなコレは。

不適切な比喩を放棄しようとしないのは何故だろう - novtan別館

結局、喩えが出てくると喩えが適切かどうかに始終して、本論が全然進んでない。

犯罪だからって一緒くたにまとめた語るなよ - 最終防衛ライン3

科学の例え話(シュレディンガーの猫とか、サールの中国語の部屋とか)が好きなアナログ人間*1にとっては、こうした展開は面白くない。比喩は抽象的な問題を即物的な問題に落とし込む強力な道具だ。しかし、軸がぶれてしまうと滑稽な作り話になってしまう(参考: 新装版 HAL―Hyper Academic Laboratory (ガムコミックスプラス))。だが、それがどうしたというのだろう? 比喩を持ち出した当人はその抽象的な問題を本当に理解しているのだろうか。恐らくそうではない。比喩を持ち出さないと説明できない程度に理解できていない。比喩を非難する側はどうだろう? やはり本題を理解していないから、比喩の非合理性を突くしかできないのではないのか。


比喩を持ちだした側は、恐らく自分が議論の本質を理解していないことを感じている。しかし、非難する側は自分が本質を理解していないこともわかっていないのではないだろうか。比喩に対抗する手段は、比喩から逃げることではない。議論に参加する全ての人に対して比喩を規制することはできないのだから。なら、どうすればいいか。ここで提示できる手段は2つだ。


1つは、問題の本質を、比喩を使わずに提示することだ。しかし、これができるなら論争は起こるまい。それを理解できない人がいるから議論するのだ。それに、人はそもそも厳密な論理を理解しやすいようには出来ていない。これについては「4枚のカード問題」(参考)などで色々調べられている。


もう1つは、こちらも比喩を使うことだ。相手の例えがおかしいと思うなら、こちらも別の例え話を持ち出してみると良い。ここで別の例え話を作れないようでは、問題の理解度は相手より下だ。もし、相手がこちらの例え話に食いついてきたら攻守は逆転する。こちらの例え話を無視して、自分の例え話を使って議論を続けるようなら、相手は理解しようとも、理解させようとも思ってないのだろう。こちらも無視するのが賢明だ。


一つの問題に複数の例え話が作れるということは、視点が複数取れる問題だということだ。問題の本質を捉えたいなら、まずはどれだけの視点が取れるかを把握しなければならない。どのような視点があるかを知るには、一つの抽象レベルにいるのではダメで、抽象レベルを上げたり下げたりする必要がある。ここで、相手が抽象レベルを下げてきたら、こちらも抽象レベルを下げないと、議論が咬み合わない。ただし、こちらと相手とでは立ち位置が違うので、当然、抽象レベルを下げたら別の位置に来るはずだ。それを示すのが例え話だ。それを突き合わせるという作業をすれば、お互いの理解が進むかも知れない。上手く行けば、お互いの例え話を少しずつ修正して、当人の間では話が合ったと感じることもできる。まあ、それでも理解し合えないなら、また別の抽象レベルに移動する必要がある。ここで、こちらから抽象レベルを移動してやれば、例え話ができるような相手であれば、スムーズな議論展開ができるだろう。特に、抽象的な問題の議論には、メタな問題把握ができるかどうかが重要になる。


してはいけないのは、相手の比喩を頭ごなしに批判すること。相手の持ち出した比喩は、こちらを理解させようとして、わざわざ考えたものだ。あるいは、相手が問題を理解する足がかりとしているものだ。これを否定することは、「私は君を理解したくないよ」という意思表示にも取れるし、相手の理解の足場を崩して、相手を議論の外に追い出す行為にもなる。それは議論を展開する上で好ましいことではないだろう。相手(対抗説)の本質の理解度を把握して、自分の理解度も把握して、初めて問題を掌握できるのではないだろうか。


比喩は強力な兵器だ。だから、相手の持ち出した比喩に直接触れてはいけない。リスクが大きすぎる。といって、比喩を禁止しては、相手は丸腰になって戦う=議論どころではない。こちらも比喩で武装して、正々堂々と戦ってみてはどうだろう。
もちろん、議論が平行線を辿っているようなら、比喩を固執する意味はない。戦場と戦い方を変えて、勝負をやり直すのだ。


例え話の例としては不適切かも知れないが、議論をするときは「知魚楽」(参考)を心に留めておくと良いかも知れない。


(と、ここで例え話を持ち出して議論を放り投げてみる)

*1:a person who prefer analogy